JFW-JCの関連プログラム「FORUM」(ジェトロ主催:セミナー)は、初日(29日)午後4時半から、「NYテキスタイル市場を狙う!~米国テキスタイル市場動向報告と市場参入の鍵~」をテーマに、武藤和芳氏(Muto Planning代表、ジェトロ米国テキスタイル分野現地事情視察ミッション派遣専門家)が講演されました。
ジェトロはJFWと連携して米国、とくにニューヨーク市場における繊維産業の現状と日本企業の効果的な市場参入の仕方を見出すため、本年7月に専門家をNYに派遣しました。現地では開催中の各見本市の視察に加え、アパレルの生地調達担当者や生地の売り込みに携わるエージェント、見本市出展各社からヒアリングを行いました。そこから浮彫になった実情や市場参入のポイントをセミナーで報告しました。
武藤氏は冒頭、「米国経済の独り勝ちといわれるが、実際には米国市場への参入は難しい。何が問題かを調査した」と始めました。米国の繊維・アパレル輸入をみると、インドは価格競争力が強く、中国も輸出量は多いものの最近は減少傾向に転じました。ここにきてモロッコやエジプトなどアフリカ勢の増加が著しく、まさにグローバルな輸入国といえます。米大統領選でトランプ氏が勝利し、TPPの行方は不透明になりましたが、「米国のTPP離脱は大きな影響が出る」と予想しています。
日本からの米国輸出は「円安にもかかわらず落ち込んでいる」とし、「米国のライフスタイルの変化や日本の繊維産業の対応力不足」を不振の理由に挙げました。日本からの織物輸出は綿と合繊織物が中心で、シルクやウールは少ないというのが現状です。
米国の小売り動向については、「大手百貨店をはじめとした大手小売店舗の売上苦戦が常態化している」と指摘。その背景にあるのはライフスタイルの変化で、モノを買うことより食事、旅行や教育など体験型消費を優先していることがあります。いわゆるモノからコト消費への移行で、日本でも同じでしょう。また、お店に行っても、サイズ切れや色切れがあり、ほしいものがすぐ手に入らないストレスを感じる。このため、店頭ではなくネットのECショッピングに比重が移っています。「米国では商品の返品は当たり前。マンハッタンでは発注して1時間で届く商品もある」ようです。
アパレルではラルフ・ローレンが1000人規模の人員削減と店舗閉鎖を行い、J・クルーも赤字幅の拡大で175人をリストラ、ギャップも日本でオールドネイビーの撤退など組織再編を加速しています。「H&Mは人でいっぱいだが、ギャップは客が少なかった。パンツやTシャツなど必需品ばかりで、ファッションの楽しみに欠けている」と分析しました。
そうした中で、米国のバイヤーが最も重要な展示会と考えているのはプルミエール・ヴィジョンでした。このため、ニューヨークで開かれる「PVニューヨーク」も視察しましたが、「出展企業は中小が中心で、レベルもふさわしくない。交通も不便でロケーションも悪かった」という印象でした。
では、米国企業は日本素材をどう評価しているのか。「合繊の高い加工・技術力、産地の伝統的技法への評価は高い。また、商品のハイクオリティと、クレームにも誠意のある対応を行う真面目なビジネス姿勢、納期の確かさ、色や素材のバリエーション、ストックサービスも強み」です。
反面、弱みはどこか。アパレルからは「リードタイムが長いこととミニマムが大きいことが課題」と指摘されました。リードタイムは通常45~60日で、最大でも90日。イタリアは45日、中国や韓国は30日で対応しています。しかし、日本は120~150日と、大幅な改善が必要です。ミニマムロットも小さくすれば、プリント生地はもっと使いやすくなります。「同じ素材がさまざまなルートから提案され、しかも価格がバラバラで、信頼性に欠ける」といった指摘も米国側からありました。エージェントからは「ビッグブランドでもヤード当たり15ドル以下、通常は10ドル以下という枠がある」と、価格面の厳しさもあります。
武藤氏は最後に米国市場開拓の課題として<1>ネット販売の攻勢 <2>リードタイム(45~60日)<3>価格(価格に対しての調査) <4>ノベルティ素材(新しい変化のある素材)を求める <5>スケジュールの前倒し(1カ月早いスタート) <6>オフショア(中国などの縫製工場渡し) <7>テクニカル・インフォメーション(厳しい試験データ) <8>パッケージ・ビジネス(製品買い)の増加――にあるとまとめました。 |